私立秀麗華美学園
「つきあってる、わけじゃないよな?」

「持田様とは、二十年以上前からの仲です。恋人だったことは一度もありませんが、それ以上の関係だと申し上げてもよいかと」

「いや、でも結婚って……今までちゃんと聞いたことなかったけど、みのるは、真理子さんのこと……」

「結婚が、必ずしも愛と共にあるわけではないことを一番ご存知なのは、和人様たちではないですか」


それは質問の答えと、湧き上がる疑問をいつまでも投げかけ続けそうな俺とゆうかへの、牽制を含んだような返事だった。


「それに、都合が良いでしょう。そうすれば結婚してからでも、私たちはお2人に従うことができますし……」

「認めません」


思わず俺も振り返らざるを得ないような、断固とした声明。背筋を伸ばし、凛とした表情のゆうかが、みのるを見据えていた。


「そんなことが理由なら私は認めません。結婚が必ずしも愛と共にあるわけではないこと。もちろん私たちはそれをよく知っています。
言いたくないこともおありでしょうし、私たちの追究から逃れようとすることに文句などつけるべくもありません。ですが、都合が良いから、なんて、そんなことを理由にするのは……私たちに失礼です」


遠慮の欠片をひとつも見せないゆうかの態度は、しかし誠意の感じられるものだった。

俺たちのテーブルにだけ沈黙がおりる。周囲の喧騒が遠のいて、テーブルの周りの空間だけが縮んでいくような感覚。


「……ご理解頂けるかどうか、わかりませんが、体裁が悪いのです」


沈黙を破ったみのるの第一声が、謝罪でないことは意外だった。


「今のこの国の社会では、結婚をして初めて一人前、というところがあります。結婚適齢期の健康な人間が独り身でいる、ということは、体裁の悪いことなのです。
私はまだ30歳にも満たない年ですし、そこまで居心地の悪さを感じるところではありませんが、いずれそうなることはわかっています。良い悪いの問題でなく、そういう風潮があることは事実です。

仕事柄、出会いはたくさんあります。ですが私はもう、一から恋愛をして関係を構築して……という努力をしたいと思えません。仕事への情熱はありますが、恋愛へのそれを持っていないということです。

あえて申し上げますが、やはり、都合が良いのです。
……それに、その点についてはおそらく持田様も同じです。恋愛への情熱を持っていない。ただ、真理子の場合はその理由が……」
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