私立秀麗華美学園
真理子、と言った言葉の先のことは、みのるもわかっていたのだろう。知ったのか、知らされたのかはわからないが。
言葉にする必要はなかった。余計な錯綜を招くだけだ。少なくとも俺は、二度目の「都合が良い」という言葉に、合理性の怜悧さ以外の何かを感じていた。

そして、ゆうかもそれを聞いて、言葉を失ったようだった。納得というには足りないが、言い返すだけの憤慨は収まっていた。


「……そのことを、真理子には……?」


同じく謝罪を飛ばして尋ねるゆうかに、みのるはどこかほっとしたような面持ちだった。会話のバランスが取れた2人の間で、俺は意識して口をつぐむ。


「プロポーズ、のような形で口にはしていませんが、真理子は昔から私の考えていることをなんでもわかってくれる唯一の存在でした。わかってくれると、思います」

「そう。…………そう、ね」

「それに、お2人を見ていた感想として申し上げますと……例え形から入ったとしても、その後に展開は望めるものなのだと、長い時間をかけて学ばせていただきましたから。夫婦という関係になることで、何かが変わらないとも限りません。
どうか、お認めいただけませんでしょうか」


女主人に許しを請うよう、深々とゆうかに向かって頭を下げる。無言ながらも、同じ丁寧さで頭を下げ返す様子に、みのるだけではなくゆうかの後ろで固唾をのんで見守っていた咲と雄吾も安堵の表情を見せる。


ずっと、教えてもらってばかりだったみのるが言った「学ばせていただきました」の意味。

それが「愛」じゃないからといって、本人たちが決めた結婚の理由にケチをつけていいことにはならない。結婚したふたりが目指すもの、目指す理由に、多様性が認められるべき時代だ。

そんな中での俺たちの一年は、いや、十年は、執拗に愛にこだわりすぎていたと言ってもいいかもしれないが、そんなことを思うのも、何も問題がなくなった今だからこそなのだろうなと、俺はこっそり苦笑した。
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