私立秀麗華美学園
結婚式と披露宴が無事に終了した後、披露宴の二次会が、身内とごくごく親しい間柄の人たちだけで行われた。

場所は水上。夕焼けの映える河川の上に浮かべられた、一間続きの船の中で、披露宴から8分の1ぐらいに減った人数の人々が、兄ちゃんや那美さんに気安く声をかけていた。


「結婚かあ……」


雄吾や咲は一次会で引き上げ、ひと足早く寮に帰って行った。さっきから隣でゆうかは、甲板の手すりに身をもたせかけながらため息ばかりついている。


「真理子さんのこと?」

「ん」

「やっぱり反対なわけ?」

「反対ってわけじゃないわ。真理子だって……たぶん、稔さんじゃない他の誰かと身を固めるなんてことは、一生ないと思う。そう思えば一応、望ましい形ではあるんだけど……。
そういえば和人、真理子の気持ち知ってたの? まさか察してたってわけでもないだろうし」

「クリスマスパーティーで2人になった時、ちらっと教えてもらって。でもゆうかがそんなはっきり知ってことの方が驚いた。ゆうか相手にこそ、真理子さんは全力で隠してそうだなと思って」


みのるも真理子さんも俺たちの間を応援してくれてはいたが、真理子さんのそれは、ただ純粋な気持ちからだとは言えなかったかもしれない。
私欲。こうした未来を、想像したことがなかったとは言えないだろう。だからこそ、ゆうかにそれが伝わるのは避けたかったのではないか。


「きっぱり否定され続けてたんだけど、一度だけ、言い逃れできないような決定的な場面見ちゃったから。
わたし、真理子に決まるまで、何人もの教育係と反りが合わなくて辞めさせてるの。わがまま娘ではあったけど、なぜかいつも教育係の方から、暇乞いをさせてしまっていて……真理子の時は、わたしから会いたくないなんて言った時もあったんだけど。頑として辞めませんからって言い張ってくれたの。真理子だけだったから……」

「……全然知らなかった」

「だって、ほんとに、2桁いくレベルよ。子供ながらに、わたしにはどっか欠陥があるのかしらって、悩んだりしてたんだから。
…………まあ、ある意味、そんな中で和人もレアケースだったんだけどさ」


難攻不落。親父がゆうかを見て思った言葉だが、大正解だったのかもしれない。


「真理子さんの前の教育係のことなんて初めて聞いた」

「積極的に黙ってたつもりはないけど。自分が嫌われてるなんて話、なかなかしたいものじゃないからかな」

「……きっと、まだまだ知らないことはあるんだろうな」


7歳から10年一緒にいたら、なんでも知ってる気にもなる。けれどそんなことは不可能だ。
違う人間どころか、自分のことを知るにも短すぎる時間なのだと思う。
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