私立秀麗華美学園
「で、本題はこっから」

「本題?」


ふんぞり返っていた進が突然姿勢を正したと思ったら、次の瞬間、頭を下げていた。
俺に向かって、頭を下げていた。


「一日だけ、花嶺さんを貸してください」

「…………は?」


今のは幻かと思うほどの速さで進が頭を上げる。そしてまたふんぞり返って、足を組んで腕を組んで、話し出す。


「嫌ならいいけど」

「……はあ?」

「もちろんゆうかの意思確認もするが、先にてめぇに許可取んのが筋かと」

「はあ」

「どっちなんだよ」

「いや…………一日って、貸すって……」

「出かけるだけだよ。ゆうかが嫌がることはしない。口説きもしない。一日だけ……友達としてでいいから、過ごしてみたい。半年顔も見ねえんだ。最後の思い出、っつーか」


思えば、進だって、結構長かった。長さだけの問題ではないにしても。諦めたくて諦められるなら苦労はしない。……あれだけ協力してくれていた進だが、きっと、未練が全くないと言えば嘘になるのだろう。

そのことに感謝はすれど、怒る権利などあるはずもない。似たような気持ちを痛いほど知ってる。


「……わかった。嫌だけど。ゆうかがいいって言ったら、いいよ」

「……口説きもしないは嘘かも」

「一瞬でひるがえしてんじゃねえよ口説くな」

「善処する」

「ああでもお前が、口説き文句ひとつも言わずに会話するとか、たぶん無理だよなあ」

「そういうことだ」

「開き直ってんじゃねーよ……まあ、俺は、どっちも信用してるから、いいよ。友達としてだろ。友達同士がしないようなことは、しないってことなら。嫌だけど。いいよ」

「……善処す」

「そこは守れよ」


かくして、進はゆうかに「お出かけ」を申し込むことになった。俺はこの時のやりとりを事前に伝えていたので、ゆうかはすんなり承諾したらしかった。

その後日時を決めたが調整がうまくいかず、結局進が渡米する日の前日で、かつ兄ちゃんたちの結婚式の前日である昨日に決まったと、俺はそのことだけ聞いていた。

どこに行くのか、何をするのか。あえて何も聞かず、一足先に式場近くのホテルに向かい、今朝遅れ気味に到着したゆうかと、何事もなかったかのように合流できた自分を少しは褒めてもいいんじゃないかと思っている。
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