私立秀麗華美学園
「じゃあ、その、デートのこと。聞いてもいいなら、お聞かせ願いたいんだけど」

「…………いつ聞いてくれるのかなって思ってた」


ちょっと口を尖らせたゆうかがくるりと振り返り、甲板の手すりに背中を預ける。風に揺らされた金色のイヤリングが、今日の夕陽の最後の輝きを照り返した。


「ロールスロイスでお出迎え。ヘアセットしてドレスアップ。そのまま高級レストラン…………なーんてことはありませんでした。
めちゃめちゃふっつうーに、正門で待ち合わせて、ふつうに街に出掛けたわ。ショッピングして、映画見て、あとね、ゲームセンターにも行ってみた。私も笠井も行ったことなかったからよくわかんなかったけど。
ただ、笠井が何をしたかったのかはすごくよくわかった。咲が持ってるどの漫画にも、一回は出てきそうなデートコースだったんだもん。きっと、私たちとは遠い、ふつうの高校生のデートがしてみたかったんだろうなって。だから昨日はね、わたしのためじゃなく、笠井のための日だったわね、完全に」

「……楽しくなかった?」


問う声は思いがけず小さくなり、ゆうかが俺の顔を見る。こらえきれなくなったように、吹き出した。


「あははっ、そこで悲しそうな顔しちゃうのが、和人だよね。ほんとお人よしなんだから」

「べっ、別に……」

「大丈夫。ちゃんと楽しかったよ。ふつうって言ったって、ショッピングコースはちゃんと考えられてたし、映画は観たいもの聞かれてて前売りを手配済みだったし、全く無駄のない完ぺきな時間配分で、一瞬たりともつまらないなんて思わなかったわ。自分でもびっくりするけど、全然話途切れなかったし」

「いやそれはそれでなんかあれなんだけど……どんな話すんの、進と」

「ほとんど学校の話よ。これでも1年間、委員長と副委員長だったんだから。あと勉強の話は、大変有意義な情報交換ができたし。お互いの趣味の話とか、バスケ部の話とか……それから、この間のドッキリの話。でもね、和人の話は全然出てこなかった。わざとかな。だからわたしも出さなかったんだけど」

「出さなくていいよ…………でも、そっか、だったら公約守ったのかな。ずっといつもの紳士口調だったわけ?」

「うーん、でも、前ほどでもなかったかな。もちろん和人相手の時みたいなのとは、違ったけど。一人称は俺だったよ。仮面、外そうとしてるのかもしれないね」

「そっか…………」


別にそんなとこまで、気にしてやる義理はねえんだけど。多重人格みたいになってややこしいことになったら、こっちだってつきあいづらい。
これからはどこに誰といても、進は進でいられたらいい、と、そのぐらいは思ってやらんでもない。
< 586 / 603 >

この作品をシェア

pagetop