私立秀麗華美学園
「そうそう。あともちろん、ニューヨークの話もしたわ。ホテル事業がどうとかってね。視察団に同行するって話みたいだけど、そのメンバーの中に、あの人が入ってるとかって。ほら、あの、私がいた旅館の別館で働いてた。愛さんだったっけ」

「へえ……!」


あの旅館はただのお気に入りなのかと思っていたが、経営にも絡んでいたのだろうか。接客業の学び手としての話ならわからない話ではない。もちろんあの時は愛さんも事情は知っていたのだろうが、それにしても機転の利かせ方は素晴らしかった。
が、気になるのは、そこと言うよりも。


「絶対あの2人、なんかあると思うんだよなあ」

「そうなの? なんか、進ちゃんが頼ってくるとしたら私ですから派手に働かせてもらうことになりそうですとかって、よくわかんない自己紹介されたっきりでよく知らないけど。愛嬌のある人だったわね」

「……30歳超えてるらしいけど」

「それは……それは、びっくりだけど…………どうなのかしら…………?」


一回り以上の年上。よくわからないが、まあ、向こうで寂しい思いはせずにすむんだろう。日常会話レベルなら英語は余裕みたいだから、現地で口説いてんのかもしんねーけどな。


「で、ゆうかは、結局、口説かれなかった? 平穏無事に終わりました?」

「多少の軽口はいつも通りだったけど、口説かれては、ない、かな。一貫して友達って態度だった。……言葉の上では、ね」

「……ん?」

「帰りに、ちょっと」

「帰りに?」

「……夜ごはん食べて、帰る前にちょっとだけ夜景スポット行って、ふつうに喋ってたんだけど……さあ帰ろうかって時に、突然手首を強く引かれて」


もたれるのをやめて俺に向き直ったゆうかは、左手を体の後ろに隠し、右手で、ひたいを指差した。


「……に?」

「ここに」

「そこに?」

「されました」

「…………夜景を? バックに? ひたいに?」

「キス」


いやいやいやいやいや友達にしないことはしないって言わなかったかあいついやいやいやいやいや。

しねえだろ。友達に。
いや、しねえだろ!

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