私立秀麗華美学園
ゆうかのもとへと走った俺は、今。

彫刻がほどこされた真っ白な大理石に、薄い金箔がちりばめられたドアの前に突っ立っている。
そのドアの窓には、ダイアモンドの粒で書かれた「A」の文字。

むろん、これはA組の教室のドアだ。


なぜ俺がそんな場所で突っ立っているのかというと、そのやたらキラキラな窓越しに見える教室に、信じられない光景があったからだ。


「ゆうかさん、大丈夫ですか?」


クラスの女生徒の声。
大丈夫かと聞いているわけは、ゆうかが涙を流しているからだった。


ゆうかが泣いてんだぞ。
これがどういうことかわかるか?

小さい頃に犬に噛み付かれても泣かなかったゆうか。
愛馬メラニーに蹴られても平然と蹴り返したゆうか。
誘拐されそうになった時は確か、相手に一本背負いをくらわせていた。

そのゆうかが泣いている。
あの夢の時のように。

声をこそあげてはいないが、目は真っ赤だし、唇を真一文字に結んで、流れ出す雫をこらえているのは明らかだ。


もちろん俺はうろたえた。
正直言うと見なかったことにしたかったぐらいだ。


しかしまさかそんなことができるはずもない。
それに、さっきの雄吾と咲の言葉。


『謝っておいた方が――』

『あたしがゆうかの立場やったら騎士なんて解除して――』


どないせえ言うねん!

ああーうろたえも極限まで達すると大阪弁が出てくるというわけか。
どーしよーどーしよー。


教室の前を落ち着きなく往復していると、彫刻がほどこされ以下略のドアが開いた。
ドアを開けたのはゆうかだった。


「……おっ……おはよう……」


ななななんでこの場面で爽やかに朝の挨拶なんだ俺!

ドアを開いたゆうかは、やはり怪訝な顔をしていた。
まさかのセリフだったに違いない。


硬直している場合ではない。
涙の理由、この状況で俺が関係していないということはまずあるまい。


「ゆうか」


気づくと俺は、ゆうかのほっそいほっそい手首をつかみ、あてもなく走り出していた。
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