お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
 真帆は蓮の言葉に一応は安心しつつ首を捻る。

「…秘書の仕事だとは聞きました」

 蓮がそうかと呟いたとき、定食が運ばれてきた。

「わぁ、大っきい!おいしそう!」

 揚げ物の香ばしい匂いに真帆は思わず目の前のアジフライに釘付けになる。けれど話の途中だったことを思い出してチラリと蓮を見ると、蓮が吹き出した。

「ははは、そんな目で見なくても、もちろん先に食べていいよ。俺も腹が減った」

 いつもより砕けた口調の蓮につられて、真帆も箸を取った。

「でも意外でした、副社長がこういうお店に来られるなんて」

 アジフライはふんわりとしてとても美味しかった。お腹が満たされていくに連れどことなく不安定だった気持ちも凪いでいき、そんな軽口がついて出た。

「高級店ばかりだと思ってた?」

 真帆はふふふと笑って頷いた。

「…まぁ、あれもあれでいいが。商談用だな。飽きるし」

 真帆は今度はあははと声をあげて笑ってしまう。

「飽きるほどなんて、うらやましい!」

 それじゃあ、昼くらい社食に行きたくなりますねと言って蓮を見ると、切れ長の瞳が優しく真帆を捉えていた。
 真帆の胸がどきりと鳴った。
 冷房は効いているはずなのに、体が熱い。
 食堂の女将がカラになった2人のお盆を下げに来て、お茶を置いてゆく。
 
「…彼女と話があるんだ」

 短く蓮が言うと、女将は心得たように座敷のふすまを閉めた。ガヤガヤとうるさかった店内の音から隔てられた部屋に、エアコンの音が不自然に大きく響いて聞こえた。
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