お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
 ビルから出て、ひたすらコンビニへの道を早足で歩いた。
 頭の中のもやもやをなんとか払い除けようと、真帆は"彼女たちの話が本当だとしても別にいいじゃない"と自分に言い聞かせてみる。どのみちあまり関わりのない人なのだから。
 直属の上司である一条の真帆に対する態度は丁寧なのだし、あとの二人も親切にしてくれている。
 朝に一度会うだけの副社長に冷たくされたからといって、べつに…。それで日中の業務に差し障りがあるわけじゃなし。
 
(そうよ、べつに…)

 けれど目指すコンビニの前に数人が集まっていることに気がついて真帆は足を止めた。
 蓮だった。
 何人かの社員と思しき男女に囲まれながらこちらへ歩いてくる。

「副社長がコンビニに来られるなんて珍しいですね」

などと声をかけられながらにこやかに話をしている。
 その様子を見つめながら、真帆は自分が彼の笑顔を見ることが初めてだと思う。

(あんなに柔らかい雰囲気の副社長初めて見る…。でもそれって他の人にとっては当たり前なんだわ…)
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