クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
(……ありがとう)

 それを口にすることができなくて、心の中で思うだけになってしまう。

「あまり無理をしないでくださいね。ゆっくりお休みでも取れたら――あ、そのお休みを私がいただく形になってるんです……よね……?」

 彼女が言っているのは遊園地に行く日のことだろう。
 そう考えて首を横に振る。

「水曜日に半休を取ってる。心配しなくても休みは適当に取っているから」

 橋本に勧められての休みだとは言わない。ゆっくり妻と過ごしてみたらと提案されたことも言わない。本当は雪乃さんにも伝えず、適当に時間を過ごすつもりだった。それがどうして、口を突いて出てしまったのか――。

「だったらよかったです」

 ほっとしたように言うのを見て、なぜ彼女を安心させてしまったのか、また自分のことがわからなくなる。
 いつもそうだった。彼女が悲しそうな顔をすると笑わせたいと思い、寂しそうにしていると励ましたくなる。
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