クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「じゃあ、水曜日に案内しますね。半休は午前ですか? 午後?」
「午後だ。昼は済ませてくる」
「わかりました。なら……ええと、どこで待ち合わせましょう?」
「家で待っていてくれ」

(どうして動き回ろうとするんだ)

 そんな思いを込めて言うも、おそらく本人にはそこまで通じていない。
 家から出て三十秒のところで待ち合わせる、と言われても俺は首を縦に振らないだろう。知らないところで雪乃さんになにかがあるかもしれない確率は、できる限り下げたい。

「わかりました。家にいますね。頑張って案内するので、楽しみにしていてください」
「……別に楽しみにするようなことじゃない」

 素直になれない子供のようだと自分で思ってしまった。
 なんだかとても嬉しそうにするその顔を見ていたら、寄り添えずにいる自分があまりにも情けない人間に感じてしまって。
 踏み出せば、雪乃さんは受け入れるだろう。それが本心でなくても。

(俺は本心から君に求められたい)

 遊園地の予定と同じく、これもデートではない。
 そう言い聞かせたのは雪乃さんではなく、自分に対してである。
 彼女の嬉しそうな顔はきっと演技で、ふたりで過ごす時間を純粋に嬉しく感じているわけではない。――そう思っておいた方がいい。
 線さえ引いておけば、あとで傷付くこともないのだから。
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