【完】ボクと風俗嬢と琴の音

ついつい声を荒げてしまって、木村さんの視線がじろりとこちらを睨みつける。
話を掛けてきたのは優弥の方なのに…
優弥はいかにも’仕事してます’って感じでパソコンに向かって文字を打ち込んでいる。



ゴホンっ!とわざとらしいくらい大きな咳払いが、俺を威圧してくる。

はぁ~。心の中で大きなため息をついて、ディスクから顔を出す。

「おまえのせいだからな」

小声で言うと優弥ははにかんで笑った。





お昼休み

オフィスの殆どの人間は外へご飯を食べに行く。
奥さんのお弁当がある課長と、コンビニで何かを買ってきてるであろう女子社員が数名。
そして優弥もコンビニ袋をディスクの上に置いて、俺の隣に座る。



「さっきは災難だったなぁ~」

「誰のせいだと思ってんだよ!」

「うわっ!お前またお弁当かよ!
しかも味噌汁まで持参とか…   ひくわ~!!」

「うるさいなぁ、経済的に考えてお弁当が1番安上がりなんだ」




お弁当箱と水筒。
おかずは手間暇をかけたものではないけれど、一応手作り3品。
白いご飯と、昨日の夜の残りの味噌汁。
これを会社に持参するのはもはや俺のルーティンである。



彼女のお弁当ではない、それが悲しいところか。
まぁ独身男性が毎日自分の為に手作り弁当を作っている、なんて普通の女から見ればドン引き案件かもしれない。


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