年下の男
ギリギリ仕事には間に合った。と言っても、4分遅れてる私の時計の中での話だけど。
煙草を吸いながら簡単に店の掃除をしていると、携帯が鳴った。私用のだ。

『おはよう、サクラ。今日仕事終わってから少し時間ないか?』

ゆったりとした口調。何か諭すような、でも人の神経を逆撫でしない優しい声。30代半ばで昨夜あんなに飲んだというのに、疲れのない言葉遣い。

『おはようございます、オーナー。』

ついこちらも背筋が伸びる。でも緊張じゃない。アイロンをかけられたみたいに、さらさらと自然に力が入ってくる。

『今のところ大丈夫ですけど、今日出勤は?』

おはようございまーす、と明るい声でコズが入ってくる。口でおはようの形を作って、ビールケースを指差しクルクルと円を描く。それやっといて、の意味。
はぁい、と言いながら、ビール瓶を冷蔵庫に入れていく。若い子とは素直か生意気かのどっちかしかない、話が上手いとか胸が大きいとかは二の次三の次、素直な子はかわいいしそうじゃない子はかわいくない。だからうちの採用基準はハッキリしてる。

『12時くらいに行くよ、お客さん連れてくから。』


―――。


おおっと、今度は仕事用の。

『わかりました、今ちょっと電話が来て…』

『あ、わかった。よろしく。』

オーナーの電話を切る前に携帯を開いた。

あの男の子ではなかった。


『今からですか? ぜひいらしてください。コズも待ってるんで』


こういう日に限ってお客が多い。
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