もう一度あなたに恋をする
アシスタントとしてやって来たのは三年前までここでアシスタントをしていた大塚華乃だった。彼女は俺と滝沢の同期、そして俺の元カノだった。なぜ彼女がうちで働くことになったのかは不明だが朱音が戻ってからの事を考えると頭が痛い。

華乃とは同期の中でも同じ部署で気が合いよく滝沢と三人飲みに行った。入社二年目の夏前、彼女から告白され付き合いだした。その当時の俺は仕事を覚えるのが楽しくて仕事優先になりがちだったが同じ部署の彼女は愚痴を言うでもなく理解してくれていたので気持ちが楽だった。入社三年目の春、立花さんが入社し俺の周りが変わってしまった。特別扱いされるのも嫌だったため社長との関係を滝沢と一部の役員以外には伏せていたのだが、立花さんとの仲を取り持とうとする専務のおかげで社内に俺が社長の息子である事が知られてしまった。
その頃から華乃の態度も少しずつ変わっていった。今まで何も言わなかった彼女だが式典などの同伴を迫ったり、要求するプレゼントの種類も変わった。俺をどこぞの御曹司と勘違いしてるかのようだった。そんな彼女と一緒にいる時間がだんだん苦痛になり、仕事で、会社以外で会う事を避けるようになった。
そして専務から圧力を受けた華乃は三年前会社を辞める事になった。同時に俺も完全に別れを告げた。



「またここでお世話になります。よろしく。」

正社員ではなく三月末までの臨時として入るためチームのみんなにだけ挨拶をする。みな彼女が働いていた当時を知っているので自己紹介も無し。
挨拶をすませた華乃が俺の所にやって来た。

「佑、私は何からしたらいい?」

は?こいつ『佑』って言った?当時ですら『久瀬君』と言っていたのに。周りのみんなも彼女の言動に驚きこちらを向き固まっている。

「・・・大塚さん。俺は君の上司です。お友達ではありません。それと君の仕事の指示を出すのは班のリーダーです。忘れましたか?何かあれば俺ではなく寺川さんに聞いて下さい。」

冷たい目線と声で諭したが彼女には伝わらなかったのだろうか

「もう、そんな冷たく言わなくてもいいのに。今まで大変だったんでしょ?私がまた支えるから。」

全く聞く耳を持っていない。

「当時から君に支えられた覚えはないけどな。」

そう呟いた俺の言葉が聞こえた周りのメンバーは顔を引きつらせていると言うのに彼女だけは頭がお花畑なのかニコニコとしている。
こいつこんな性格だったか?三年前より悪化してないか?



「お前、大丈夫か?まためんどくさいのが舞い戻って来て。九条さん二月から復帰するんだろ?」

その日の昼食時、滝沢に言われた。ホントだよ、あと十日で朱音が戻ると言うのに頭が痛い。
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