例えば、こんな始まり方
私は、香ばしい卵とバターの匂いで目が覚めた。純一が朝ごはんを作ってくれているのだ。

「おはよう、真由。今日は、スクランブルエッグだよ。これから、トースト焼くから、顔洗って着替えてきて」

「了解」

本当に、純一が来てから、世話になってしまっている。本当だったら、私が朝ごはんくらい作ってもいいのに。

朝食のテーブルに着くと、純一が言った。

「昨日の話、のことだけど。いきなり、話していいかな?」

「うん。覚悟はできてる」

「そっか。僕は、ずっと、小さなカフェの店主をしていたんだけど、経営があんまり芳しくなかったんだ。で、そんなある日、ファミリーレストラン ジョイの経営者だ、という人に声をかけられてね。沢山のデータから出した売上予測では、安定した収入が見込めるし、宣伝費用は本部が持つ。テレビCMもやっている大きなチェーン店だ。本部が主資金を出すので、自己資金は最低限でいい。マニュアルがしっかりあるので、誰でもできるし、ファミリーレストラン ジョイのネームバリューで自然にお客が来る。そう言われてね。」

あぁ、詐欺だ。私は思った。そんなにうまく行くはずがない。

「貯金500万で、店を持たされたんだけど・・・たしかに、客は来る。多少は、儲かる。でも、ロイヤリティーの額がそれ以上で。しかも、本部からの指示が事細かにされて、全然自由に出来ない。売り上げや仕入れのノルマもきついし。最初はよかった客入りもだんだん減って行ってね。休日は0に近いし、だんだん疲労困憊してきて。バイトもそんな調子じゃ辞めて行くし、悪循環で。店を閉めざるを得なくなったんだ。そうしたら、肩代わりしてくれたはずの残りの店舗費用も出せ、って脅されて、しかたなく借金して」

「大変だったね・・・って言うか、その借金ってどのくらい?」

「1千万。ただ、僕の元妻が外科医の娘でね。義理父に頭を下げて無利子で借りたんだ。そのせいで、元妻に頭が上がらなくなったって言うか・・・今までの関係と全く違うものになってしまったんだ。愛情も・・・なくなってしまったのかもしれない」

純一は肩を落とした。私は、何と言葉をかければいいか分からず、目の前の朝食が冷めていくのを見つめていた。
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