例えば、こんな始まり方
4月の新緑の香りがすがすがしい井の頭恩賜公園。天気は、おもいっきりのピーカンだ。純一と私は、手を繋いでゆっくり歩いていた。ジョギングをしている人、サイクリングをしている人、私たちのようにお散歩している人、様々だ。

「スワンボートでも、乗る?」

無邪気に聞く純一。日曜日だけあって、ちょっと混んでいるけど空きはありそうだ。

「そうね。2人でがんばって、ペダル踏もうか」

券売機でチケットを買って、順番を待ってスワンボートに乗る。

「こんなの乗るの、すっごい久しぶりかも。中学生以来?」

「そのときは、デートだったの?」

からかうように、純一が言う。

「実はそう。でも、ボートをひたすらこいで会話が全然なかったなぁ。ウブすぎて、こんなに相手が近くにいるのが落ち着かなくてたまらなかったの。懐かしいなぁ」

「真由も成長したんだね。そのころの君は、男を拾うなんて夢にも思わなかっただろうね」

「今だって、ビックリしてる。なんで、純一くんを家に泊めてあげようと思ったのか、不思議。でも、約束通り、何もしないでいてくれてるじゃない」

「あぁ、そうだな」

時々、理性が吹っ飛びそうになるときがあるけどな、と純一はこっそりと思った。

30分はあっという間で、いそいで船着き場へと戻った。もう少し、2人で漕いでいたかったな、なんて思う私なのだった。
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