例えば、こんな始まり方
同じころ・・・日向市の実家で、美沙はため息をついていた。

「純、元気にしてるかな。どこに住んでいるんだろう?仕事は見つかったのかしら」

スマホの画面の「旦那」という文字をじっと見た。いけない、いけない、離婚したのだ、純一とは。今までみたいに、気軽に電話しちゃいけない。でも、借金の件があるから、番号を削除するわけにもいかない。美沙は、スマホの「編集」に行って、「旦那」を「中山純一」に訂正した。

純一が、今度、電話するときは仕事が決まったとき。そう、約束していた。それまでは、こちらから電話できない。純一は、愛情がなくなったと言ったが本当だろうか。そして、自分自身はどうなのだろうか。本当に、純一への想いは消え去ってしまったのだろうか。

「美沙~?由美ちゃんが遊びに来たが」

「はぁ~い、今、下りる」

由美は、高校、大学と仲のよかった親友だ。今は、商社マンの男性と結婚して、4歳と小学校1年生の娘さんたちがいる。

「久しぶり、由美。元気そうね」

嫌な女だと思ったが、由美の学生時代よりふっくらとした体形と、全体にかもしだす幸せな雰囲気に嫉妬した。いけない、いけない。

「美沙は・・・大丈夫?大変だったね?」

「うん・・・でも、借金は、全部、元旦那が背負ってくれたから。これから一人だけど、自立して生きていくわ」

「美沙・・・無理しないでね」

由美の同情が、自尊心を傷つけた。そんなにかわいそうなの?

「大丈夫よ。落ち着いたら、また、結婚前にしてた保育士の仕事をする予定なの。・・・ごめんね、今は、ちょっと、旅の疲れが抜けなくて」

「あたしこそゴメン。また、改めるね」

冷たくし過ぎたかな。ごめん、由美。でも、まだ、現実を直視するのはきつすぎるの。純・・・純。なんで、あたしたち、2人で乗り越えられなかったんだろう。
< 20 / 39 >

この作品をシェア

pagetop