例えば、こんな始まり方
「真由、大丈夫か?美沙、何をするんだ」

純一が、ナイスタイミングで現れた。

「だって、この()が・・・」

「美沙・・・もう僕たちは終わったはずだろ?」

「終わってない、私の中では」

「美沙、夫婦ってさ、片方が救いようもないくらい冷めてしまったら、もう駄目だと思うんだけどな」

「純は、『救いようもないほど』冷めたの?この娘に『拾われた』から?」

純一はちらっと私を見る。

「いや、その前からだ。美沙が、自分の貯金を崩さずに、お義父さんの借金を持ち出した時からだよ」

「それは、父さんが・・・」

「『自分の金は大切にしろ』って?旦那が苦しんでるのに?」

「・・・・・」

「真由はね、お前と同じ300万くらいだけど、すんなり貸してくれるって言ってくれたんだ」

「私だって、2人でがんばろうって言ったじゃない」

「『自分の貯金はそのままに』な。主婦友と競う服やアクセサリーやレストランが、諦められなかったんだろ?」

「うっ・・・。純、私たち、もう本当に駄目なの?」

瞳をうるうるさせながら、純一に訴えかける美沙。

「僕はもう、真由だけを愛してる。真由を1人にしたくない」

美沙は、がっくりと肩を落とし

「分かった。もういい」

美沙は、持っていたハンドバックから離婚届を取り出し、署名、捺印した。

「ありがとう」

「ありがとうございます、美沙さん」

ふっ、と美沙は微笑んだ・・・あぁ、やっぱりこの人は微笑(わら)っていたほうがいい。純一も同じ考えのようで・・・。

「僕は、美沙のその笑顔が好きだったんだ」

「もう、そんなこと言わないでよ。忘れられなくなるじゃない・・・私から純を奪ったんだから、2人で幸せになってよ!」
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