桃色のアリス
目立つ上に、怪しい。
「猫は嫌われているんだ」
「嫌われている?どうして?」
「……」
チェシャ猫は黙ってしまった。好奇心が災いした。聞いちゃいけなかったかもしれない。
「知らない方がいいこともあるんだよ。アリス」
「……?」
チェシャ猫の声に少し哀しさが混じる。気になって首を傾けると、唯一見える口元が微笑んだ。
「アリス、お誕生日おめでとう」
チェシャ猫から聞けるとは思わなかった予想外の一言に、思わずきょとんとする。
「さっき言いそびれたからね。アリスの誕生日が今日だとは思わなかったよ」
チェシャ猫のしっぽが下に下がっていくのが視界に入る。
「だからこんなプレゼントしかないんだ。ごめんよアリス」
チェシャ猫の手には花が一輪。手のひらに乗る小さな赤い花。薔薇のように花弁が重なってない、シンプルさがある花。
「アネモネ?わぁ、綺麗……」
花の事はあまり詳しくないけど、この花がアネモネだということは分かった。
「くれるの?ありがとう、チェシャ猫」
「うん。アリス、目を閉じて」
大人しく目を閉じると、フワリとアネモネの香り漂う。手が遠退く気配がしてそっと目を開けると、さっきよりも間近にきたチェシャ猫の顔があった。一緒だけ瞳が光った気がして、ドキリと胸が高鳴る。
頭を触ると、チェシャ猫の手にあったアネモネが髪にさしてあった。
「似合うよ」
「あ、ありがとう……」
冷ましたはずの熱が上がった気がする。冷ましに来たはずなのに。
「じゃ、じゃあ中に戻るね!花、ありがとう……!」
心臓がドキドキいっている。な、なんで……!?