堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~

「それはきっと、あの人の弟子が開いた店ね。まさか、ルリがそこで働いているなんて……なんだか運命的だわ」
「ああ。そういえば、ヤツは十年ほど前に日本人の弟子を取っていたな」

 日本人の弟子……。私はまさかと思いつつも、よく知る身近な人物の顔を思い浮かべる。

「そうそう。それでその弟子に、日本で店を開くときには、自分が恋焦がれ、とうとう手に入れられなかった女性の名前を使ってくれと頼んだそうよ。今でも彼の作るトルテと紅茶でたまに三人でお茶をするんだけど、その時に聞いたの」
「弟子の名前は……うーん、なんだったかな」

 じっと考え込むお祖父さまだけど、彼らに聞かなくてもその名前はわかる気がした。志門さんも同じことを考えていたようで、自然と目が合った私たちは、ふたりでこっそり驚きを共有する。

「絶対に世良さんのことですよね」
「ああ。まさか、あの店のElisaという名が、祖母から取られたものだったとは……」

 そういえば、時々上尾さんが、彼について『師匠と同じく不器用』みたいなことを言っていた。私より長く勤めている上尾さんはきっと、彼のウィーンでの修業時代の話を聞いたことがあったんだろうな。

 もしかして、今後世良さんが弟子を取ることがあったら、その弟子がひとり立ちするとき『Ruri』なんて名前の洋菓子屋さんが誕生したりして……? なんて、そんなわけないか。

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