堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~

 あの事件から、もう少しで二年が経つ。それでも一向に戻らない彼の記憶について、最近ではあまり考えないようにしていた。

 出会いの頃の、たった数カ月の記憶がないだけ。それを思い出せなくたって、志門さんは私や翔音を愛してくれているんだから、いいじゃないって、自分に言い聞かせて。

 それで納得していたつもりだったけど、心の底では望んでいたのだ。いつの日か、こうしてすべてを思い出してもらう日が来るのを。

「私たちが、最初に会ったのはどこですか……?」
「ウィーン国際空港」
「一緒に食べたケーキは?」
「ザッハートルテ。ホテルのカフェでね」
「二度目のデートの場所は?」
「六本木の美術館で、絵本の展示を見た。翔音へのプレゼントを二冊買って、瑠璃を初めて自宅に招いた」

 なにを聞いても完璧な答えが返ってくるのがうれしくて、質問攻めにしてしまう。けれど彼さんはそのひとつひとつに丁寧に答えて、一緒に思い出をなぞってくれた。

 志門さん、あなたは本当に、私をもう一度見つけてくれたんですね――。

 そんな思いで彼を見つめると、彼もまた愛しげに私を見つめ返し、どちらからともなく、引き合うように唇を合わせる。互いの涙の味が溶けたキスが、心に優しく沁みわたった。

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