堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~
そうして私たちはまた馬車に揺られ、ウィーンの街並みをゆっくり堪能した。次第に日が暮れてくると、なんとなく夢から覚めていくような心地になる。
今日一日は、すごく楽しかったけど……明日からはひとりで観光だ。まだやりたいことはたくさんあるはずなのに、隣に志門さんがいてくれないのでは、味気なく思えてしまいそう。
ただ偶然に出会って、少しの間一緒に過ごしただけなのに、どうしてこんな気持ちになるんだろう。自分で自分がわからない……。
モヤモヤした思いを抱えつつも、別れの時間は刻一刻と迫っていて、夕暮れの薄闇に染まる街の一角で、私たちは馬車を降りた。
私は志門さんの顔がうまく見られず、石畳に視線を落としてうつむく。すると、とうとう志門さんが最後の挨拶を口にした。
「今日はありがとう、瑠璃。きみのおかげで楽しい時間が過ごせた」
その優しい声音を聞いただけで、泣きたいような気分になった。
ありがとうだなんて言ってくれなくていいから、もう少しだけ一緒にいたい……。
ワガママな思いが、私の胸をつつく。けれど、口に出す勇気はなくて。