堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~
「おおげさですよ、世良さん。では、失礼します」
クスクス笑って頭を下げ、私は休憩室を出た。
今日は心なしか、世良さんがいつもより多めに喋ってくれたような気がするなぁ。いつか正式なスタッフになった時のためにも、彼ともうちょっと打ち解けられたらいいんだけど。
そんなことを考えながら店を後にし、まだ残暑の厳しい自由が丘を歩きだす。
同じ九月でも、ウィーンは涼しかったのにな……。頭上から降り注ぐ太陽の日差しに目を細めつつ、無意識に旅行の記憶を思い返しそうになって、慌てた。
「早く忘れないと……」
でも、どうやって? こうしてひとりになると、さっきまで上尾さんや世良さんの前で笑っていたのが嘘みたいに心が塞ぐ。
私はバッグからスケジュール帳を取り出し、九月のページに挟んである二枚の小さな紙を手に取る。あの朝志門さんが残していったメモと、彼の名刺だ。
こんなふうに後生大事に取っておいたって、メモに書かれた『連絡して』の言葉は、社交辞令か、遊びの延長でしかないに決まっているのに。
『京極建設 代表取締役副社長』の彼はきっと、ものすごく立派なオフィスの豪華な副社長室にいて、私には想像もつかない大きな仕事をしてるのだ。側には美人の秘書がいるに違いない。
住む世界の違う人。好きになっちゃいけない人。
わかっている、けど……。