堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~
すぐに入り口から中に入ろうとしたが、その時けたたましい救急車のサイレンの音が近づいてきた。何事かと思った俺は、道路の方を振り返る。
すると間もなく救急車が視界に現れ、しかもちょうどElisaの前に停車したい様子だったため、押尾が慌てて車を移動させていた。
まさか、この店に急病人が? 俺が呆然としている間に救急隊員が数人Elisaの中に入っていった。
これではケーキを買うどころじゃなさそうだな。残念だが、思い出のザッハートルテの味はまた次の機会にするか……。
少々落胆しつつ、早くもやじ馬で人だかりができ始めた店の前から去ることにする。そして押尾がどこに車を移動させたのかと、歩道の端に立ってしばらく路上を見渡していた時だった。
「神谷、気をしっかり持て」
野太い男の声が背後でそう言うのが聞こえ、〝神谷〟という名に反応した俺はつい振り返った。
瑠璃の姓と同じだという、ただそれだけなのに、耳にしただけで胸の奥がちくりと痛む。