転生したら、モブでした(涙)~死亡フラグを回避するため、薬師になります~
「空をぼんやり見つめる余裕など、今までなかったからな」

十年前、家族を殺され、ローデンヴァルト先生は天涯孤独となった。孤児院に引き取られたあとも、辛かっただろう。

殺人犯が死んでも、復讐は果たされないまま。主犯となる人物を探すために奔走する日々である。

言われてみたら、たしかにぼんやり空を眺めている場合ではない人生である。

ローデンヴァルト先生はもっと、美しいものに目を向けるべきだろう。そう伝えると、どこに美しいものがあるのか分からないと返される。

「春の薔薇園のかぐわしい芳香とか、夜の雨音とか、夏の川のせせらぎとか、冬の寒さで澄んだ空気とか、季節の美しさがいろいろあるでしょう?」

「知らんな。季節はだいたい、暑いか寒いか、何も感じないかのどれかだ」

「そんな……!」

こうなったら、私が直接教えるしかないだろう。

「ローデンヴァルト先生、すべてが終わったら、私が季節の美しさを紹介して回るから」

振り返って宣言すると、驚いた顔で見つめられる。面倒だからと断られるかと思っていたが、帰ってきた返答は「暇があれば、付き合ってやる」だった。
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