悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
(ドローナのアイディアとは少し違うけど、明日は学校も休みだし、お弁当でも作って持って行こうかな)

 早速買い物リストを作成したカルミアは仕事が終わると買い出しに向かう。
 また、美味しいと言ってくれるだろうか。買い物をしながらも考えるのはリシャールのことで、早く会えるようにと願うばかりだった。
 新鮮な卵に野菜、それから鶏肉等を購入すると、脇目も振らずに寮へと戻る。
 さすがに朝食に弁当を用意するのは違うと思い、ならば昼食に間に合わせようと朝早くから調理に励む。

(卵焼きに、定番のから揚げも入れて。あとは野菜に、デザートも付けようかな)

 ついつい買い過ぎてしまうのは自分の悪い癖だと思う。でもきっと、美味しそうに食べてくれる周りの人にも責任はあるはずだ。

 弁当を手に、まずはリシャールの部屋へと向かう。呼び鈴を鳴らすが、やはりこちらは留守のようだ。
 続いて学園へ向かったカルミアは迷わず校長室へ向かう。もう何度も通っている道だ。迷いはないが、手にしている物のせいか、やけに足取りが重く感じた。久しぶりに会うことで緊張しているのかもしれない。

(そういえば、リシャールさんが荷物を持ってくれたことがあったわね)

 初めての仕事を終えた夜。夜風に身震いをすれば上着を貸してくれた。両手でかごを抱えていると、手から荷物を奪ってみせた。
 船で出会ってからまだ一月も経っていないのに、ほとんど毎日顔を合わせていたせいか、随分と長く会っていないように思えてくる。

「リシャールさん、いますか?」

 しばらく待つと、中から待ちわびた反応があった。喜び入室したカルミアだが、肌に触れた空気に足を止める。

(何? いつもと空気が違うような……)

「どうかしましたか?」

 リシャールは不思議がるカルミアを目もくれず、書類に視線を落としている。

「仕事中にすみません。あの、お久しぶりです。このところ仕事が大変だと聞きましたが、きちんと食べていますか? 学食にも来れないようなので心配で。もし食事がまだでしたら仕事の報告も兼ねて、一緒に食べませんか?」

 カルミアはバスケットを掲げるが、リシャールは見向きもしない。そして一言だけ、簡潔に告げた。
< 131 / 204 >

この作品をシェア

pagetop