悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「いりません」

 リシャールが手を止めることはなく、視線さえも上げずに答える。
 今の言葉は本当に彼が言い放ったものだろうか。信じられずにカルミアはその場に立ち尽くしていた。

「聞えませんでしたか? 食事など時間の無駄です。私には必要ありません」

「リシャールさん……?」

 どうか聞き間違いであってほしいと願いながら、もう一度呼びかける。

「用が済んだのなら出て行ってもらえますか。私は忙しいのです」

 返された言葉の鋭さに、弾んでいた気持ちは急速に沈んでいく。
 やっと会えると思った。きっとまたあの笑顔でありがとうと、美味しいと言ってくれると思っていたのに。
 けれどそれ以上に、リシャールなら受け取ってくれると期待を押し付けていた自分が嫌になる。一人で盛り上がっていた自分が恥ずかしい。

「すみませんでした」

 約束をしていたわけではない。リシャールにだって都合はあるだろう。もう食事を済ませてしまったのかもしれない。だからリシャールを責めるつもりはなかった。
 ただ、行き場のなくなった弁当は悲し気だ。

「これ、どうしよう……」

 自分で食べるしかないだろう。そう諦めかけた時、休日だというのにカルミアは頼もしい二人と出会った。

「カルミア? 今日は学食休みよね。こんなところでどうしたの?」

 カルミアに気付いたオランヌは声を掛けてくれる。いつもと変わらず話しかけてくれたおかげで少しだけ元気が戻っていた。

「えっと……」

 しかしどう答えるべきか、カルミアは珍しく言葉に詰まる。

「何かあった?」

 真剣な眼差しに見つめられたカルミアはとっさに笑顔を張り付ける。

「何もないわ! あの、えっと……ピクニック!」

「なんて?」

 あまりの言い訳に、二人から意味がわからないという顔を向けられた。
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