悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
 バラはアレクシーネが好んで身に着けていた花で、あれはアレクシーネを憎み避けている。彼女を連想させる香りは苦手だろうと身体が動いたのだ。

「壁にぶつかって動きが止まったから物理攻撃も可能なはずよ。けど倒すまでにはいかないわ。消すことも一時しのぎにすぎないから、本当に消滅させるためには……」

 強い力をぶつければ相殺する効果はあるが、半端な力では憎しみを煽るだけとなる。力の供給炉である地下の扉を塞がなければ消すことは出来ない。

(ゲームだと、扉を塞ぐことが出来るのは主人公だけという設定だったわね)

 そこで待ち受けるのがラスボスとして立ちはだかるリシャールだ。つまりこの状況は主人公が最後に与えられる試練、最終イベントに酷似している。

「カルミア! 大丈夫!?」

 駆け寄ってきたのはドローナで、背後にはオズとオランヌの姿も見えた。

「授業をしていたら窓の外に竜が見えたの。学食の方へ飛んで行ったから心配したわ」

 ドローナは純粋にカルミアの身を案じて駆けつけてくれたのだろう。竜を見据える瞳は鋭いものだった。

「大丈夫、みんな無事よ。厨房の壁以外はね」

「そうみたいね。ちょっとベルネ、しっかりないよ!」

 ドローナはベルネをつつくが未だ放心したままである。
 
「あたしの、あたしの城が……」

「僕、こんなに取り乱しているベルネさん初めて見た気がします。ベルネさんに比べたら僕の混乱なんて小さな物ですよね」

 カルミアが竜を撃退している間にも、ロシュは会話が成立するほどの落ち着きを取り戻していた。
 人間たちは一息つくが、頭上をかける竜はまたしてもお構いなしである。無慈悲に降下する竜はまるで空気が読めないが、ここでもカルミアは颯爽と前に出た。

「物理攻撃は有効よ!」

 有言実行とばかりに身体を浮かせたカルミアは降下してきた先頭の竜を華麗に蹴り飛ばす。

「すっげ……」

 リデロが呟き、カルミアに続いたのは驚いたことに大人しかったベルネである。

「あんたたち覚悟しな!」

 強風を打ちこまれた竜は背後の木々に打ち付けられ沈黙する。しかしこれもまた一時しのぎであり、カルミアは今のうちに対策を指示する。
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