猫になんてなれないけれど
23時になる前に、私たちは店を出た。

お酒の力もあるけれど、告白されて、ふわふわと、夢心地のような感覚。

駐車場の真上には、綺麗な満月が光ってる。

なんとなく、今日のことを祝福しているように思って、幸せな気持ちで夜空を見上げた。

「・・・すごい。綺麗ですね、月」

自然と、そんな言葉を口にしていた。美しく、まあるい光。

冨士原さんも一緒に夜空を見上げると、「ああ」と言って優しく笑った。

「・・・本当だ。満月。かなり久しぶりに見た」

「私もです。夜、空を見上げるなんて、普段してなかったなあって思います」

「・・・確かに。けど、いいタイミングだな。今日、真木野さんと一緒に見れて」

見下ろすように笑いかけられて、一瞬で顔が火照ってく。

街灯と月の明るさで、頬が赤くなったのがバレてしまったかもしれない。



冨士原さんが車の鍵を開けてくれ、「どうぞ」と私を促した。

軽く頭を下げてから、私は助手席の位置に腰掛ける。

隣に彼が乗り込むと、途端に甘い緊張感に包まれた。

「帰り道、どこか寄りたい所はありますか。コンビニとか」

問いかけられて、私は「いえ」と返事した。

「特にないです。ありがとうございます」

「そうですか。じゃあ・・・まっすぐ真木野さんの家に行きますね。もしくは・・・帰らずに、オレの家に来てもらってもいいんだけど」

「!」

さらりと誘われ、私は動揺してしまう。

冨士原さんにこういう台詞を言われることは、まだ、慣れずにかなり戸惑う。

「きょ、今日は・・・止めておきます」

「・・・そうですか。残念。では、また今度」

助手席の私に目を向けて、冨士原さんはふっと笑った。

もしかして、冗談半分だったのだろうか。冨士原さんの本気の気持ちも冗談も、私にはやっぱりわかりにくい。



駐車場を出て、夜の県道を心地いい速度で車が走る。

街の景色も、きれいに車窓を流れてく。

緊張と、高揚と。

まだ、「彼女」の立場に慣れなくて、落ち着かない気持ちを外の景色で紛らわせた。

「真木野さん。今日は、仕事もあったし疲れたでしょう」
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