猫になんてなれないけれど
この状況で、続きを言うべきなのか少し迷った。

けれど、素直に伝えてみることにする。

「ただ・・・今はまだ、あまり実感がないっていうのは正直あるかもしれません。忘れてたってわけではなくて」

「・・・・・・」

言い訳みたいに聞こえただろうか。

「実感がない」って言われることも、嬉しい言葉じゃないのかも。

ドキドキしながら返事を待つと、冨士原さんは、「なるほど」と呟いてから、少し笑った。

「・・・確かに。聞いておきながらオレもそうかもしれないな。真木野さんが彼女って、まだ、そこまで実感湧いてない」

「冨士原さんも?」

「はい。ついさっきからのことですし。真木野さんの言葉を借りると、『好き』って言われた訳でもないし。あの時の雰囲気とか、押しに負けてOKしてくれたのかな、とか、考えない訳でもないし」


(・・・そっか・・・。確かにあの時、私は『はい』って返事をしただけだから・・・)


私も好きでOKしたと、伝える場面かもしれない。けれど、素直じゃない私から、ストレートにそんな言葉は出てこない。

「・・・雰囲気とか、押しに負けたわけではないです」

そう、伝えるのが精一杯で。

自分でも、かわいくないなあって思う。

だけど、冨士原さんはそんな私の気持ちごと、汲み取ってくれたようだった。

「・・・そうですか。じゃあ、真木野さんも、オレのことを好きでいてくれたってことかな」

信号待ちで車が止まる。

優しく、甘く、語りかけるような目線が私に向けられた。

胸が鳴る。

コクリと頷く私の髪に、彼の手が、初めて触れた。

「・・・そうしたら、お互いに、早く恋人だって実感できるようにしないとな」

冨士原さんの言葉の後で、信号が青に変化した。

車が再び走り出す。

彼が触れた感触は、まだ、私の髪に残ってる。

けれどやっぱり、今が夢心地であることに変わりはなくて。

自分が、冨士原さんの「彼女」だって実感するには、もう少し、時間がかかりそうだった。









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