猫になんてなれないけれど
ドアを閉め、車窓越しに会釈をすると、そのまま車に背を向ける。

いつもなら、彼の車が見えなくなるまで見送るけれど、今日は、そんな心の余裕は私になかった。


(いい歳して、キスでここまで動揺するとか・・・)


それとも、歳なんて関係ないのかな。

いくつになっても、好きな人との最初のキスは、特別なことかもしれない。

落ち着かない胸を押さえつつ、見慣れたエントランスのドアを開いて、マンションの中へと入って行った。

静まり返ったエントランスホール。

さっきまでの熱っぽかった感情が、静寂の中で少し落ち着く。それでも、まだ、心臓が脈打つ音は、いつもよりも大きいけれど。

足を進めて、集合ポストの前に行く。

暗証ダイヤルのロックを解除し、小さな銀色の扉を開けてポストの中身をチェックした。


(今日は・・・全部チラシだね)


必要のないものが、圧倒的に多そうだけど。

地元情報のフリーペーパーも入っていたので、家に帰ってからゆっくりと見ることにする。

ポストのドアをパタンと閉めて、ダイヤルロックをかけた後、エレベーターホールに向かおうとした、その時だった。


ガサッ。


(・・・ん?)


どこからか、物音がした。感じる気配。それも、とても嫌な雰囲気の。


(や、やだ。また・・・?)


いつかの怖かった記憶を思い出す。

エレベーターホールで見かけた人影や、エントランス付近で聞いた物音。

あの時は、勘違いだって思ったけれど、もしかして、そうじゃないーーーー・・・?

今日はもう、深夜といってもいい時間だし、前回のように、住人の誰かがコンビニに出かける可能性も低そうだった。

むしろもう、寝ている人が多いかも。

どうしよう。ちょっと、怖い・・・。
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