猫になんてなれないけれど
男性の顔が、怒りのものに変化した。そして、ツカツカとこちらに歩み寄ってきて、向き合うように私の両腕をがしっと掴んだ。

「な、なにする・・・っ」

「僕はちゃんと気持ちを伝えた!なのに、あなたは無視をして・・・っ!」

「!?」

両腕を力一杯掴まれて、泣き出しそうな気持ちになった。

だけどそれより、向けられた憎悪の顔が怖くって、視線をそらすことに私の心は精一杯だ。

「なんでですかっ!?」

「!?」

「なんで・・・っ!」

叫びながら、男性は、掴んでいた両腕を離して私のことを突き飛ばす。

身体が壁にぶつかって、私は、そのままそこにしゃがみこむ姿勢になった。


(痛・・・っ)


背中に強い痛みが走った。堪えきれず、さすがに泣き出しそうになった時。

ギッ、と、勢いよくエントランスのガラス戸が開く音がした。

続けて、早足でこちらに向かってくる足音。

私と、そして、私を突き飛ばした男性も、はっとしたように足音の方向に目を向けた。

「・・・なにしてる」

暗闇の中から、恐ろしく低い声がした。

足音の主が立ち止まり、私を突き飛ばした男性に、氷のような視線を向けた。

私は、その足音の主を、信じられない気持ちで見上げた。


(冨士原さん・・・?なんで・・・・・・)


「・・・なにした?彼女に」

一歩、一歩、冨士原さんは男性の元へと近づいていく。

男性は、冷酷さを纏った彼の気迫にうろたえて、震える身体で後退る。

「え・・・あ、いや、僕は・・・・・・」

「・・・・・・」

「あ、あの・・・・・・・・・」

「・・・なにしたかって聞いてんだ」

怒りを携えた表情で、冨士原さんは、後退りする男性を壁の際まで追い込んだ。

そして、男性の顔の真横に腕を立て、自分よりも、10cmは低いその男性を鋭い視線で見下ろした。

「・・・」

「あ・・・あの・・・」

「・・・・・・ああ・・・、確か、同じ婚活パーティに来ていましたね。フリータイムで、彼女と一緒に話してた」

「・・・っ!」


(え・・・?)


冨士原さんの言葉を受けて、私は、男性の顔を怖いながらも再度見た。すると、記憶がぼんやり蘇る。


(あっ・・・!そうだ、フリータイムで話した人だ・・・!)
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