猫になんてなれないけれど
それから間もなく。

二人の警察官が現れて、私を突き飛ばした男性を警察署に連行していった。

男性は、既に打ちひしがれた状態で、言われるがまま、警察官の指示に従っていた。



男性たちが立ち去ると、ひとまずの安心感は確かにあった。

けれどそれはわずかなもので、向けられた憎悪の顔や、両腕を掴まれて突き飛ばされた感覚は、まだ、恐怖として私の記憶に残ってる。

いつの間にか、写真を撮られていたことも。

歪んだ感情を抱かれていたことも。

簡単に消せる記憶じゃなさそうで、怖くて、不安で、涙が出そうになってくる。

恐怖でしゃがみこんだままの私のことを、冨士原さんは、無言でぎゅっと抱きしめた。

私は、そのあたたかい感覚に、今度こそ、涙がこぼれたのだった。



少し気持ちが落ち着いてから、冨士原さんと、彼の車で警察署まで一緒に行った。

車内ではあまり話をしなかったけど、心身共に疲れ切っていた私には、その状況がありがたかった。



警察署に着いたのは、まさに、深夜と言ってもいい時刻。

私は、いくつかの質問に答えただけで、後は、冨士原さんが色々と話をしてくれた。

その内容を聞く中で、なぜ、彼があの時私の元に来てくれたのか理由がわかった。

元々は、冨士原さんは私の忘れ物を届けるために来てくれたのだ。

と、いうのも・・・私は、冨士原さんの車の中にスマホを忘れていたらしい。

多分、車を降りる際、カバンを落としてしまった時だ。その際に、カバンからスマホが抜け落ちたんだろう。

彼がそれに気がついたのが、私をマンションに送った後。数分間、車を走らせた時だった。

助手席の下から着信音らしきものが聞こえたそうで、見ると、私のスマホが鳴っていた。

そこからすぐに引き返し、マンションの前で車を降りて、入り口に差し掛かった時ーーー冨士原さんは、中から男性の叫ぶような声を聞く。

慌ててエントランスに入ってみると、そこには、私に憎悪を向ける男性と、しゃがみ込む私の姿があったーーー・・・ということだった。


(そっか、それで・・・)


スマホを彼から返してもらい、確認すると、萌花からの電話の着信記録があった。

そういえば、私も、萌花に電話をかけようかって考えていた頃の着信だ。

あの時、もし、萌花の電話がなかったら。着信音がしなければ、冨士原さんもスマホの存在に気づかなかっただろうと思う。

もしかしたら、テレパシーみたいなものが萌花に伝わったのかもしれない。







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