猫になんてなれないけれど
警察署を出た後は、また、冨士原さんの車に乗った。

この助手席のシートに触れるのは、今日、何度目のことになるだろう。

気持ちも身体も疲れ果てていたけれど、ここに座るとほっとする。

「・・・大丈夫ですか。身体がつらかったら、後部座席で横になっていていいですよ」

ぼんやりとシートベルトを締める私に、冨士原さんが心配そうな声で言う。

背中を打ったことを伝えているし、色々と気にかけてくれているのだろう。

「いえ。大丈夫です。ここの方が落ち着くし」

「・・・そうですか。じゃあ、移動したくなったら言ってください。いつでも」

「はい」

冨士原さんは頷いて、私の髪に優しく触れた。

安心感がもうひとつ。心の中に積み重なっていく。

「・・・で、行き先ですが。オレの家でもいいですか」

エンジンをかけながら、冨士原さんがさらりと呟く。

私は、声は発さなかったけれど、「え」のカタチに口が開いた。

「・・・警戒しなくていいですよ。真木野さんを、一人にしたくないっていうだけの理由だし。だからといって、突然真木野さんの家に押しかけるのも気が引けますし」

「・・・」

彼の気持ちは嬉しく思った。

今はまだ、自宅マンションのエントランスを通ることにも怖さがあるし、家で一人きりになるのも心細い。

甘えたい気もするけれど・・・。

「・・・急にお邪魔して、迷惑じゃないですか」

心細い時に限って、様々なことが頭に浮かんで躊躇する。

男の人にすぐに素直に甘えることは、私には、なかなか難しい。

「いえ。全く。そもそも食事帰りにも誘いましたし・・・。真木野さんなら、いつ来てもらっても」

彼の横目と視線が合って、勝手に頬が熱くなる。

こういう時の反応は、自分では、どうにかできるものではないらしい。
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