猫になんてなれないけれど
「先輩から借りている」と言っていた富士原さんが住む家は、なんとなくの想像通り、ファミリータイプのマンションだった。

基本は多分分譲の、300世帯ぐらいありそうな大規模マンションの一室だ。

ホテルのようなエントランスを通り抜け、エレベーターに乗って7階へ。「702」と表示された部屋の前で立ち止まると、冨士原さんは「ここです」と言ってドアの鍵をガチャリと開けた。

天井に、自動でパッと電気がついた。靴一つなく、広くて綺麗な玄関だ。

「どうぞ」

「あっ・・・はい。お邪魔します・・・」

さっきまでは、緊張よりも、恐怖心や疲労感が心や身体を占めていたけど。

改めて、ここが冨士原さんの家だと認識すると、途端に緊張感が強くなる。

ドキドキしながら靴を脱ぎ、彼に続いて廊下を進む。

突き当たりにある木製のドアが開かれて、リビングの中へと通された。私は思わず、「わ」と驚きの声を出す。

「すごい。きれいな部屋ですね・・・」

余計なものが置かれていない、シンプルな印象の部屋だった。

20帖くらいのスペースに、二人掛けのダイニングテーブルセット、テレビとソファ、ローテーブルしか置いてない。

それ以外の小物といえば、テレビのリモコンがテーブルの上にあるくらい。

部屋の隅には、チリ一つ落ちてないような予感があった。

「本当に、無駄なものがないですね・・・」

「まあ・・・そうですね。家具は全て、先輩が置いていったものをそのまま使っていますので。それ以上は増やしてませんし、ここ以外にも三部屋あるので。リビングに、物を増やす必要もないですからね」

「なるほど・・・」

と、納得しつつ。私だったら、本や雑貨類など余計な物をどんどん増やしてしまう気がした。

無駄がなく、整った部屋の印象は、冨士原さんのイメージ通り。

さすがだな、と、一人で感心していると、「座ってください」と促され、テレビの前のソファーに座った。


(あ、いい感じの座り心地・・・)


身体が深く沈み込まない、固めのシートが心地いい。

そのまま眠りそうな気持ちでいると、冨士原さんは、ミネラルウォーターの入ったコップを「よかったら」と私に差し出してくれた。

「水で申し訳ないですが」

「い、いえ。ありがとうございます。いただきます」
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