猫になんてなれないけれど
そういえば、とても喉が乾いていたと今更ながらに気がついた。

受け取ったコップの水を、ゴクゴク一気に飲み干した。

「・・・はあ・・・」

喉から水が染み渡り、全身が順に潤っていく。

ほっとひと息ついたところで、冨士原さんは、「随分、喉が渇いてたんだな」と笑って私の隣に腰掛けた。

ドキッ、と胸が跳ね上がる。

多分、彼と私は手のひら2コ分くらいの距離感だ。

「もう一杯飲みますか」

覗き込むように問いかけられて、さらにドキッと胸が鳴る。

何気なく、視線を逸らして返事する。

「い、いえ。もう大丈夫です」

「そうですか。じゃあ、飲みたくなったらいつでも。その辺に置いとくし」

「はい。ありがとうございます・・・」

「大丈夫」と言っておきながら、緊張で、また、喉が渇いていく感覚がした。

だけど、そんなことは口にできないほどに緊張感が増していく。

彼の家で、ソファの上で、2人で座るこの距離感。平常心でいることは、確実に無理だと思う。

「・・・」

「・・・」

しばしの沈黙が訪れて、更にドキドキ胸が鳴る。

心を落ち着かせるためにゆっくり呼吸をしていると、冨士原さんが口を開いた。

「・・・真木野さん。身体の痛みは、大丈夫ですか」

「あ・・・はい、平気です。少し、痛むくらいで」

「・・・そうですか。無理はしないでくださいね。辛かったら、ここで寝転がってもいいですし」

「ありがとうございます。大丈夫です。今のところ・・・」


(ダメだ、やっぱり、緊張する・・・)


きちんと会話ができているかな。

彼が隣にいるのは安心だけど、同時に、心臓がドキドキするのも止まらない。

冨士原さんも、いつもに比べて落ち着きがない感じがあって、余計に意識してしまう。

「・・・どうしましょうか。疲れていると思うので、このまま寝てもいいですし。もしシャワーを浴びるなら、遠慮せずに使ってください」

「・・・ありがとうございます。そう、ですね・・・」


(・・・どうしようか・・・)


確かにすごく疲れているし、気を抜くと、怖かった記憶に頭を支配されるから、すぐにでも眠りたいという気持ちはあった。

けれど、今日は仕事だったし汗をかいたし・・・この状態で、冨士原さんの寝具に寝転がるのも申し訳ない。

とはいえ、付き合った初日に彼の家でシャワーを借りるということも、それはそれで気が引けるというか、ますます緊張するわけで・・・。

悩んでいると、冨士原さんがポツリと呟く。
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