猫になんてなれないけれど
この流れでこの状況で、時間を気にする自分のことを、少し寂しくも思うけど。

これからお互い仕事だし、さすがにそろそろ出勤準備をしなくては・・・。

と、思いつつ。プロポーズからの甘い流れをいきなり止めてしまったことに、申し訳ないような気持ちも感じる。

彼の様子をドキドキしながら窺うと、冨士原さんはふっと笑った。

「・・・さすが美桜」

「えっ」

「いや。やっぱり、きちんとしているというか。真面目だなって」

ポン、と頭を撫でられて、なんとなく、恥ずかしいような気持ちになった。

褒められている気がするけれど、からかわれている気もするし。

ちょっと複雑な気分になって、少しむくれた顔で言う。

「・・・冨士原さんも、いつも真面目じゃないですか・・・」

「まあ・・・そうだけど。今は、仕事も時間も忘れてた」

「美桜がかわいくて」と言葉を加えられ、今度は、完全に恥ずかしい気持ちになった。

だからといって、想いが甘く揺れないように、私は、心の中で自分にビシッと気合いを入れる。

「と、とにかく。用意、行く準備、しちゃいましょう!」

「・・・」

考えるように、無言で私を見下ろす冨士原さん。

私を包囲している両腕は、1ミリたりとも動かない。


(・・・こ、これは・・・解放する気がないのかな・・・)


と、それはさすがに困るので、さらに言葉を足してみる。

「あの・・・私はまだ着替えてないし、メイクにも結構時間がかかるので・・・」

冨士原さんは、出かける準備がほぼ整っているからいいけれど。

私はこれから、やらなきゃいけないことがまだまだ色々あるわけで・・・。

顔を上げ、視線で思いを伝えると、彼は私の顎先に触れ、そのままぐっと持ち上げた。
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