猫になんてなれないけれど
そこから少し雑談をして、ひと息つくと、冨士原さんは腕の時計に目を向けた。

そして、合図のように私を見つめて頷いた。

「じゃあ・・・悪いけど、オレたちはそろそろ」

そう言って、彼がゆっくり席を立つ。

頷いて、私も続いて立ち上がる。

「ん?もう行くの?」

「ああ。これから、買い物に行く予定があるから」

「買い物?」

「あ・・・菓子折です。明日、うちの実家に行くときに持っていってくれるそうなので」

彼の代わりに答えると、先生は、「ああ」と納得したように頷いた。

そして、なにかを閃いたのか、「そうだ!」と言って手をたたく。

「それなら、おすすめのいいのがあるぞ。俺が奥さんの実家に行った時、持っていったやつなんだけど。すごい好評だったんだよなー」

「そんなわけで縁起もいい」と、先生は、近くにあったメモ用紙に店名とお菓子の名前を記してくれた。

隣町にあるデパ地下に、売っているとのことだった。

「買う物が決まってるなら必要ないと思うけど。これから探し回るっていうならおすすめだ」

「・・・わかった」

差し出されたメモ用紙を、冨士原さんはぶっきらぼうに受け取った。

けれど、それを畳んで胸ポケットに入れる仕草は丁寧で、大切なものを預かったかのようだった。

「・・・じゃあ。相澤、またな」

「おう。明日はがんばれよ」

「・・・・・・言われなくても」

不機嫌そうに言った後、一秒おいて、冨士原さんはふっと笑った。

先生は「だよな」と言って、冨士原さんに笑顔を返す。


クリニックの外へと出ると、あたたかな陽気が私たちの身体を優しく包む。

ーーー今日は、嬉しい日になった。

私と彼は、笑顔で手を振る先生の見送りを受けながら、その場をゆっくり後にした。




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