猫になんてなれないけれど
冨士原さんの車に乗って、クリニックから約30分。

先生に教えてもらったお菓子屋さんがあるという、隣町のデパートの地下にやってきた。

土曜日の午後のデパ地下は、たくさんの人が行き交っていて、その賑わいは、色とりどりのスイーツたちとよく似合う。

売り場の中を巡っていると、メモ用紙に書かれていた店名と同じお菓子屋さんが目に入った。

「あっ、冨士原さん、ここじゃないですか?」

立ち止まり、私はお店を指差した。

ショーケースの中を覗いてみると、教えてもらった名称の焼き菓子もきちんと飾られている。

「これですね。ほんとだ、美味しそう」

「・・・そうだな。美桜の家族も嫌いじゃないかな」

「はい。基本的に、両親も弟もお菓子大好きなので。すごく喜ぶと思います」

「そうか」と頷くと、冨士原さんは近くにいた店員さんに声をかけ、早速その焼き菓子を買っていた。

包装され、紙袋に入った菓子折を店員さんから受け取ると、彼はほっと息を吐く。

「とりあえず、用意ができて一安心かな・・・」

「そうですね。教えてもらわなければかなり迷ったでしょうから・・・相澤先生に感謝ですね」

私が言うと、彼は少し不服そうな顔をする。

「・・・どうだろう。それはなんか、癪だけど」


(ふふっ、素直じゃないなあ・・・)


先生のおすすめを迷わず買っているあたり、信頼はあるのだろうけど。

気心の知れた相手が故に、素直に感謝を表すことは、少し照れくさいのかもしれない。

そんな様子が微笑ましくて、私は思わず笑ってしまった。すると彼は、照れ隠しのようにこめかみの髪をかきあげた。

「・・・そろそろ疲れただろ。どこかで少し休もうか」

切り替えるように、冨士原さんは腕の時計に目をやった。

私も一緒に見てみると、時計の針は、15時を少し過ぎている。

「3時。そうですね。・・・あ、そうしたら、天気もいいし屋上に行ってみませんか?コーヒー屋さんもあるみたいです」

「ああ、じゃあ、そうしようか」

「はい」

頷いた私の右手を、彼は左の手に取った。

見上げると、すぐ、私に優しい視線が注がれた。


ーーー幸せだな、と、ふと思う。


何気ない動作ひとつでも、一瞬で、胸いっぱいに満たされる。

右手を包む彼の手を、私もぎゅっと握り返した。

こうして一歩、未来へ進む。

私たちは歩幅を合わせて、屋上へ続くエレベーターへと向かって行った。








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