猫になんてなれないけれど
雲ひとつない青空が、無限のように広がっている。

10階建てのデパートにある屋上は、景色がよくて、空の近さと開放感が気持ちいい。

歩きながら、私は小さく深呼吸。

「・・・なんか、空気がのんびりしてますね」

「ああ。たまにはいいな、こういう場所も」

デパートの屋上に来るなんて、いつ以来になるだろう。

懐かしい施設の中に、目新しさが同居する。

綺麗に整えられた芝生が広がるゾーンには、家族連れやカップルたちが、のびのびと時間を過ごしてる。

小さな遊具で遊んでいる子どもがいたり、花壇の花や虫を観察している子がいたり。

この空間を、各々が自由に楽しんでいるようだった。

私たちは、芝生の奥にある小さなコーヒーショップでアイスコーヒーとワッフル(これは私だけ)を買い、近くにあったベンチに座った。

青空の下のコーヒータイムは、やっぱりとても気持ちいい。

250円のコーヒーが、何倍にも高価に感じるようだった。

「・・・明日は、11時半でいいんだっけ?」

コーヒーを片手に、走り回る子どもたちに目を向けながら、冨士原さんが呟いた。

明日の、私の実家に行く時間。

「はい。なので、9時過ぎに冨士原さんの家を出れば充分間に合うと思います」

「そうか・・・」

真面目な顔で、空を見上げる冨士原さん。

顔がいくらか強ばっている。

「やっぱり、緊張しますよね・・・」

「・・・それはもちろん。初めて挨拶に伺う訳だし。それも、付き合って一週間で『結婚させてください』って、お願いをする訳だしな・・・」


(そうだよね・・・)


私が電話で報告し、それで了承を得てはいる。

父も母も、どちらかといえばおっとりしているタイプだし、弟は、人見知りしないお調子者で、緊張なんて必要ない!って私は思ってしまうけど。

それは、あくまでも自分の家族だからであって、冨士原さんの立場なら、緊張するのは当然のことだと思う。

「大丈夫です!・・・としか私は言えないんですけれど・・・。妙な空気が流れたら、ちゃんとフォローはしますので」

「ああ。それは、ぜひ頼む」

彼が笑った。

緊張が解けたようで、私も少しほっとする。

ワッフルを口に頬張って、アイスコーヒーを飲んでひと息ついた。

「・・・ところで。私からの挨拶は、本当にあれだけでいいんでしょうか・・・」

私からの、彼の両親へのご挨拶。

相澤先生には説明を省いてしまったけれど、私と彼の両親は、オンライン上で対面している。

冨士原さんの両親は、共に研究職で仕事がかなり忙しく、「いつ会えるかわからないから」と、オンラインで短い挨拶だけをした。

そして、それでもう安心できたとのことで、結婚はもちろん賛成するし、自分たちのことは何も気にせず話を進めてくれていい、と、返事を受けた状態なのだ。
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