猫になんてなれないけれど
それから毎晩寝る前に、萌花に、メールアプリで変わったことはないかと尋ねた。

萌花からは、特に何も変わりはないと、あるとすれば、門脇さんが開店から閉店まで毎日居座っていることくらい、と、苦笑いしているうさぎのスタンプ付きでメッセージが返ってきた。


(門脇さん、萌花が心配なんだよね・・・)


在宅ワーカーの門脇さんは、基本的に、場所はどこでも仕事が出来る。そのため、「はなの季」のカウンターで仕事を始めることもあるそうで、最近は、カタカタとキーボードを打つ音がお店に響いているらしい。

萌花はそれがちょっと気になるようだけど、他のお客さんたちは全く気にしていないそうなので、萌花が気にしなければ、特に問題なさそうだった。

いずれにせよ、門脇さんが萌花を見守っていてくれるのは、私としては安心だ。用心棒ではないけれど、やっぱり、防犯面で心強いと思うから。

ちょうどあの日・・・ガラス片のクレーム男が来た時に出くわしてしまった常連の石原さんたちは、あれ以来、お店には来ていないとのことだけど、他の常連さんたちは変わらずに足を運んでくれているようなので、風評被害がないことに、とりあえず、ほっとする。

石原さんたちも、落ち着いたらまた来てくれるといいな、と思う。




冨士原さんは、何度か様子を窺うメールをくれた。

私は、萌花の言葉をそのままに、特に、何も変わりはないと返事した。

それについては「よかった」と、冨士原さんはメールを返してくれたけど、先日拘束したクレーム男は黙秘を続けているそうなので、「何も変わりがない」ことを、「安心」だと定義するのはまだまだできないようだった。

あの日の動機も真相も、まだ、なにもわからない。

ただ・・・唯一、クレーム男は誰かに依頼されたことをほのめかすような台詞だけ、供述したとのことだった。

けれどその後は、問い詰めても笑ってはぐらかされるそうだから、事情聴取は、思うように進まないらしい。


(『誰かに依頼された』・・・か)


もしかして、その「誰か」というのは、萌花がずっと隠している「心当たり」の相手だろうか。

もちろん、クレーム男は「ほのめかせている」だけだから、依頼した「誰か」なんて、実際には存在せずに、あの男が一人で計画したことかもしれない。

けれど、萌花のこれまでの様子から、誰かを庇って・・・守っているようにも思う。


(萌花・・・いったい、誰を守ろうとしているの?)


尋ねても、萌花はきっと「誰か」については言わないだろう。

言いにくい、なにか理由があるんだろうと思うけど・・・。

力になりたい。だけど、見守るしかない。

歯がゆい気持ちはあるけれど、今はやっぱり、見守って、早く解決するようにと願うことしかできなかった。







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