猫になんてなれないけれど
うつむく萌花に、冨士原さんは「大丈夫ですよ」と声をかけた。萌花は、潤んだ目で静かに頷く。
「簡単には口にできない事情」があるために、萌花は、「揉めている相手」とのやりとりを一人でなんとかしたかった。
けれど、話し合いは収束せずに、相手は、椿ちゃんまで巻き込もうとした。それで萌花は、これまでにない恐怖と怒りを感じたそうだ。
もう、このままではいられない。
だけど、一人ではどうしたらいいのかわからない。
悩んだ萌花は、「警察」という大きな組織を通さずに、けれど、警察官である冨士原さんに、個人的に相談にのってもらえたら・・・と思ったそうだ。
「ごめんね、美桜も巻き込んで・・・」
「いいよ、それは全然。それで・・・その『事情』って?」
尋ねると、萌花は「うん」と頷いた。そして、大きく息を吸い込んで、ふーっと息を吐いた後、その「事情」に繋がる話を始めた。
ーーー椿ちゃんの、父親の名前。
あの時萌花が、未婚の母になることを、決意させた相手のことを。
「い、伊集院幹斗!?」
私は驚いて叫んでしまった。だって、萌花が口にしたその人は、最近話題の若手イケメン国会議員だったから。
「やっぱり、驚くよね・・・」
「そ、そりゃあ・・・どこで知り合ったの?」
萌花と伊集院幹斗(いじゅういんみきと)議員の接点。全く想像できなくて、私は萌花に質問をした。
「うん・・・内緒にしてたんだけど、私、大学生の時、クラブでホステスのバイトをしてたの。母の病気が見つかった頃で・・・治療費とか、色々必要で」
萌花の両親は、萌花が幼い頃に離婚をしている。お母さんの病気の治療費は、一人っ子の萌花がやりくりするしかなかったのだろう。
「幹斗さんは、その時のお客様。私を気に入ってくださって、いつも指名してくれてたの」
その時萌花は20歳。幹斗議員は32歳だったという。
その頃、幹斗議員はまだ政治家秘書という立場にあって、「いつか国を変える政治家になる」と国会議員を真っ直ぐに目指していたらしい。
「真面目で情熱もあって、すごく素敵な人だった。だから私も、この人に見合う人になりたいって、真剣に考えたりしてね、政治のことも、ちょっと勉強したりしてたの」
懐かしむように、けれど、寂しそうに萌花は言った。
それから、「ホステスと客」という関係が恋人関係に変わるのに、さほど時間はかからなかったそうだった。
「それで・・・付き合って半年くらい経った時かな。私は椿を妊娠したの。私は学生だったから、大学はどうしよう、バイトはどうしようってすごく悩んだんだけど・・・。私も若かったし、かなり夢見がちだったしね。結婚しようって言われるかな、なんてことも考えて。
とにかく、幹斗さんにこれからのことを一緒に考えてもらおうって、そう思って彼に言ったの」
けれど、萌花が妊娠の事実を告げると、幹斗議員は、「僕の子じゃないだろう」と突き放したそうだった。
「もちろん、100%幹斗さんの子どもなんだけどね。びっくりしたよ・・・、あれだけ素敵だと思っていた男性に、そんなことを言われるなんて」
「簡単には口にできない事情」があるために、萌花は、「揉めている相手」とのやりとりを一人でなんとかしたかった。
けれど、話し合いは収束せずに、相手は、椿ちゃんまで巻き込もうとした。それで萌花は、これまでにない恐怖と怒りを感じたそうだ。
もう、このままではいられない。
だけど、一人ではどうしたらいいのかわからない。
悩んだ萌花は、「警察」という大きな組織を通さずに、けれど、警察官である冨士原さんに、個人的に相談にのってもらえたら・・・と思ったそうだ。
「ごめんね、美桜も巻き込んで・・・」
「いいよ、それは全然。それで・・・その『事情』って?」
尋ねると、萌花は「うん」と頷いた。そして、大きく息を吸い込んで、ふーっと息を吐いた後、その「事情」に繋がる話を始めた。
ーーー椿ちゃんの、父親の名前。
あの時萌花が、未婚の母になることを、決意させた相手のことを。
「い、伊集院幹斗!?」
私は驚いて叫んでしまった。だって、萌花が口にしたその人は、最近話題の若手イケメン国会議員だったから。
「やっぱり、驚くよね・・・」
「そ、そりゃあ・・・どこで知り合ったの?」
萌花と伊集院幹斗(いじゅういんみきと)議員の接点。全く想像できなくて、私は萌花に質問をした。
「うん・・・内緒にしてたんだけど、私、大学生の時、クラブでホステスのバイトをしてたの。母の病気が見つかった頃で・・・治療費とか、色々必要で」
萌花の両親は、萌花が幼い頃に離婚をしている。お母さんの病気の治療費は、一人っ子の萌花がやりくりするしかなかったのだろう。
「幹斗さんは、その時のお客様。私を気に入ってくださって、いつも指名してくれてたの」
その時萌花は20歳。幹斗議員は32歳だったという。
その頃、幹斗議員はまだ政治家秘書という立場にあって、「いつか国を変える政治家になる」と国会議員を真っ直ぐに目指していたらしい。
「真面目で情熱もあって、すごく素敵な人だった。だから私も、この人に見合う人になりたいって、真剣に考えたりしてね、政治のことも、ちょっと勉強したりしてたの」
懐かしむように、けれど、寂しそうに萌花は言った。
それから、「ホステスと客」という関係が恋人関係に変わるのに、さほど時間はかからなかったそうだった。
「それで・・・付き合って半年くらい経った時かな。私は椿を妊娠したの。私は学生だったから、大学はどうしよう、バイトはどうしようってすごく悩んだんだけど・・・。私も若かったし、かなり夢見がちだったしね。結婚しようって言われるかな、なんてことも考えて。
とにかく、幹斗さんにこれからのことを一緒に考えてもらおうって、そう思って彼に言ったの」
けれど、萌花が妊娠の事実を告げると、幹斗議員は、「僕の子じゃないだろう」と突き放したそうだった。
「もちろん、100%幹斗さんの子どもなんだけどね。びっくりしたよ・・・、あれだけ素敵だと思っていた男性に、そんなことを言われるなんて」