猫になんてなれないけれど
考えて、私は、あえてお金を受け取る選択も有りじゃないかと萌花に言った。

それで、完全に縁が切れるなら。

これからの、萌花と椿ちゃんの安全が守られるなら。

向こうの要望に応えることはかなり悔しい気持ちがするけれど、「養育費」として受け取って、向こうが求める「言わない」という約束と、萌花の「二度と関わりたくない」という望みを一致させるのは、悪いことではないと思った。

「うん・・・それも少し考えた。けど、椿が大きくなった時、もしかしたら、お父さんに会いたいって言い出すことも考えて。私はもちろん、二度と関わりたくないし、関わらせたくもないけれど・・・。

椿の、未来の気持ちはわからない。そうすると、『言わない』って契約で私がお金を受け取れば、椿が将来抱くかもしれない願いを、今から・・・元から絶ってしまうんだなって思ってね。やっぱり・・・受け取れない」

「・・・・・・・・・そっか・・・」

まるで、暗くて深い海の中。

不安を抱え、海の底を彷徨っているかのようだった。

先がわからない。道が見えない。見つけられたと思っても、自分の気持ちだけでは進めない。

だけどそれでも、地上に繋がる最善の道を探さなければ・・・。


(こんな状況・・・いったい、どうしたら・・・)


海の底は真っ暗で、私の息も、徐々に苦しくなっていく。

それでもどこか、進む道を探さなきゃ。

萌花にとって、椿ちゃんにとって、一番いい選択はーーー・・・。

「・・・わかりました。大丈夫です」

真っ暗な気持ちの中に、突然、「大丈夫」という言葉が届いた。

私は驚き、声の主に目を向けた。

冨士原さんは、無表情で眼鏡の縁を持ち上げる。

「ここまで聞かせていただいて、萌花さんの意向も理解できました。あくまでも、幹斗議員が犯人なら、という前提ですが・・・多分、間違いないでしょう。それならば、解決できると思います」
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