猫になんてなれないけれど
「冨士原先輩はこういうことが趣味なので、心配しなくても大丈夫ですよ」

私の心の内を読んだのか、そう言って、にやっと笑った青龍さんを、冨士原さんはジロリと睨む。

「・・・こういうことって。趣味で他人のパスワードなんて調べる訳がないだろう」

「いや、じゃなくて。パソコンの操作自体が趣味だっていう意味ですよ」

「・・・・・・言い回しが微妙だな・・・」

不服そうに呟く冨士原さん。

今回の行為は不本意だとは思うけど、とにかく、パソコン操作が得意だっていう意味だよね・・・。

「まあ、不正行為に関しては追求しないでいただいて。僕が、冨士原先輩に『調べてほしい』と頼んだことだし、もともとは義兄さんが悪いことですからね。何か問題が生じたところで、僕の力で跡形もなく握りつぶしておきますし。全く問題ないですよ」

青龍さんが「ははは」と笑った。さすが、伊集院家の長男らしく、かなりの人脈も権力も持ち合わせているようだった。

青龍さんの、ブラックな一面ちょっと発見。

そして、話は次の展開に。

「それで、そうしてつかんだ証拠をかざし、義兄さんを問い質していきました。そうしたら、もう逃げられないと思ったんでしょう、見事に泣き崩れまして。土下座で『なんとかしてくれ』って頼まれましたよ」

「土下座・・・」

萌花の件・・・椿ちゃんのことは、さすがに青龍さんにも言えなかったのか、自分でなんとかしようとしたようだけど。結局、土下座をして頼むだなんて・・・。

呆れて疲れ果てた、と言っていた青龍さんの心労は、さらに増したことだろう。

「僕としてはもう、両親や姉に全てぶちまけたいと思いましたが。ただでさえ今姉さんは、三波くららの件でかなりメンタルやられてるんです。そこに、実は他に子どもが・・・椿ちゃんがいたなんて、言える状況でもないっていうか・・・。すみません、こんな言い方は、萌花さんにはとても失礼なのですが・・・」

「・・・いえ、大丈夫です」

気丈な様子で萌花が言った。

お互いの立場の中で、様々な思いや事情を抱えてる。そしてそれをお互いに、わかろうとしているようだった。

「もちろん、萌花さんの要望もありますし、僕だけの感情で、両親や姉には言えませんから。話していません。その後はただ淡々と、義兄さんに萌花さんの要望を伝え、拒否する場合はこれまでのことを全て父に報告すると言いました」

「・・・はい」

「義兄さんは、『わかった』ってすぐに了承しました。証拠もあるし、言い逃れはできないですしね。義兄さんは、今の立場をなにより大事に思ってますから。父に知られることだけは、避けたかったのだと思います」

これで、幹斗議員は今の立場は守れたけれど、彼は、椿ちゃんと、将来向き合うかもしれない未来ができた。

そしてそれがどんなに重いことなのか、彼は多分、わかっていないだろうと思った。

「それで、誓約書も作成しています。もう二度と、義兄さんから萌花さんたちに一切関わらないこと、けれど、椿ちゃんが『会いたい』と希望することがあったなら、その時は、きちんと父親として会うことを記した内容です」
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