猫になんてなれないけれど
そう言うと、青龍さんは幹斗議員のサインが入った誓約書と、「申し訳ありませんでした」と書かれた謝罪文を萌花の前に差し出した。

萌花は息を飲みこんで、静かにそれを受け取った。

「・・・ありがとうございます・・・。こんなに早く・・・それも、希望通りに解決していただけるなんて・・・」

解決したことが、どこか信じられないような面持ちで、萌花は誓約書をじっと見た。

「いえ。こちらこそ・・・。義兄が本当に、大変なご迷惑をおかけしました」

立ち上がって頭を下げた青龍さんに、萌花は恐縮しながら「座ってください」と声をかけていた。

幹斗議員の義弟が、青龍さんでよかったと思う。青龍さんにとっては、それこそ大迷惑だと思うけど・・・。


それから、冨士原さんはガラス片のクレーム男についての話題を出した。

ずっと黙秘を続けていたのは、偽名で、雇い主が誰かわからないという理由もあったようだけど、なにより、警察がヤキモキする様子をただ単に面白がっていただけだった。

そして、萌花も門脇さんも、クレーム男を虚偽や傷害で訴えないとのことなので、これ以上、この件を警察が捜査することはなく、マスコミにも詮索されることはないようだ。

とはいえ、クレーム男が、これで無罪放免になる訳ではなく。別件で窃盗の容疑があるらしく、今回の件と合わせてしかるべき処罰を受けるそう。

「それと、椿ちゃんに紙袋を・・・お金を渡そうとした男性に関してですが。あれは、幹斗議員本人だったようですよ」

「ええっ」

私と萌花は驚いた。考えてみれば、その可能性も充分あったと思うけど、他のことに気を取られ、すっかり盲点になっていた。

「・・・やだ」

呆然とする私の横で、萌花が、泣きそうな顔で苦笑した。

「もう、父子対面はしちゃってるんだ」

そう呟いた横顔は、呆れているのか怒っているのか。それとも・・・もっと違う感情なのか。

なんて声をかければいいのかわからずに、私はただ、「うん」と小さく頷いた。
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