猫になんてなれないけれど
「現金で一千万を渡してほしいと依頼をするのは、さすがに他人には任せられなかったんでしょう。そのまま持ち逃げされる可能性も高いですからね。もしくは、椿ちゃんに会ってみたい、という思いがあったのでしょうか。・・・わかりませんが」

「・・・」

冨士原さんの見解に、萌花は無言でうつむいた。

私はやっぱり、簡単な言葉をかけることはできなくて、ただ、萌花を見守っていた。

「・・・わからないですね、本当に。幹斗さんの考えることは、今も昔も、私には全くわからないです」

そう言うと、萌花はふーっと大きな息を吐き、気持ちを切り替えるように天を見上げた。

そして、もう一度深い呼吸をした後で、笑顔を見せて、冨士原さんと青龍さんに深々と頭を下げた。

「今回は本当に、色々と、どうもありがとうございました。そんな言葉じゃ、足りないくらいなんですけれど・・・」

「いえ。こちらこそ、お力になれてよかったです」

青龍さんがそう言って、冨士原さんも頷いた。

萌花も、すっきりしたような、ほっとしたような笑顔になっているけれど・・・私は、胸のつかえが取れないでいる。


(萌花が望むカタチで解決できて、それはもちろんよかったけれど・・・)


これで全て終わりになって、幹斗議員は、何事もなかったようにこのまま政治家を続けていくんだ。

将来の、椿ちゃんと向き合うかもしれない未来はあるし、三波くららとの不倫報道で、それなりの社会的制裁を受けてはいると思うけど・・・。

萌花については・・・もちろん萌花の望みだけれど、これで終わりにされるのは、どこか悲しく、そしてとても悔しく思った。

「・・・ああ、そうだ」

考えていた私の耳に、青龍さんの声が届いた。顔を上げると、彼はにやっと笑って話し出す。

「ちなみにですが、義兄さんのことはこれで無事終了、なんてするつもりはありませんよ。いくらなんでも、義兄さんに都合がよすぎることですからね」

「え・・・?」

また、私の心の内を読まれただろうか。青龍さんは話を続ける。

「僕もまもなく、政界に進出しますから。義兄さんには、ちょっと・・・駒になって動いてもらいます。義兄さんが、僕に逆らうことは一切できませんからね」

青龍さんの目が、黒い光をキラリと放った。なんとも言えず、恐怖を感じるような目だ。

「もちろん、それで終わらせるつもりもありません。そもそも僕は伊集院家の長男ですし、義兄さんを駒にしたところで大して利益はありませんしね。もう一つ、制裁を加える予定です。

ただ、義兄さんは憎いんですが、姉とはまだ夫婦ですし、なにより・・・かわいい姪っ子甥っ子の父親でもありますからね・・・。彼らを傷つけたくはないんです。

だから、彼らをこれ以上傷つけることがないように、けど、義兄さんには一生をかけて反省をしてもらいます。萌花さんにも、納得していただけるようなカタチにしていくつもりです。その手筈は、すでに整え始めましたから」

その整え始めた「手筈」のことは、今はまだ、語れないとのことだけど。

多分、相当過酷な「制裁」なのかもしれないと、それだけは感じたのだった。







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