猫になんてなれないけれど
「・・・あっ、そうだ」

萌花がまた、にやにやと嬉しそうな顔をしながらこちらを向いた。

嫌な予感、と考えながら、私は萌花に目を向けた。

「今回のお礼・・・冨士原さんには、美桜にお願いしてもいい?」

「・・・え?」

思考がフリーズしてしまう。それは、いったいどういう意味だ?

「私は、お店もあるし椿のことも忙しいし、改めて、会ってお礼ができる余裕がないの。青龍さんも忙しいと思うから、青龍さんにはなにかお礼のものを送っておくけど・・・冨士原さんには、直接、美桜がお願い」

「お、お願いって・・・」


(私も、それなりに忙しいんですが・・・)


と思ったけれど、多分、ツッコミどころはそこじゃない。

「美桜へのお礼も兼ねてだよ。美味しいところに、2人で食事に行ってきて。もちろん、お代は私が払うから。2人きりでね、お願いします」

やけに、「2人きり」を強調された。動揺のあまり、返事を躊躇していると。

「もし、美桜がどうしても行けないって言うんなら・・・私が、時間を見つけて冨士原さんをお誘いするけど。それでもいい?夜、お酒の席で、2人きりになっちゃうけれど」

萌花が、色っぽい横目を私に向けた。

私はさーっと青ざめて、首をブンブン横に振る。

「だ、だめ!私が、行きます・・・」

咄嗟にそう答えると、萌花はにっこり微笑んだ。

「ふふっ。そう?じゃあ決まり。お願いします」


(・・・上手に乗せられた・・・)


もちろん、萌花なりの気遣いからくる作戦だとは思うけど。まんまとそれに乗せられて、ちょっと悔しい気持ちもあった。

「あっ、話をすれば。冨士原さん、来たみたい」

萌花の声に、店の出入り口である引き戸に目を向けた。

磨りガラス越しの暗闇に、車のヘッドライトの明かりが見えた。

引き戸を開けて、萌花と一緒に外に出る。
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