白雪姫に極甘な毒リンゴを 3 (桃華の初恋編)

 十環先輩に抱きしめられている今が
 現実なのかどうかもわからないくらい
 頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。


 その時
 今にも消えそうな弱々しい声が
 私の耳元で必死に言葉を紡ぎだした。


「この場所で……
 結愛さんと出会ったんだ。
 告白したのも
 別れを告げられたのもこの階段でさ。

 思い出すだけで苦しくてたまんないのに
 忘れられないの。

 桃ちゃん、俺のこと
 助けてくれない?

 結愛さんとの思い出
 塗り替えてくれない?」


 その言葉を聞いて
 十環先輩の悲しみが
 痛いほど伝わってきた。


 十環先輩に抱きしめられて
 嬉しいはずなのに、
 私の胸は苦しくて苦しくて
 しかたがない。


 こらえきれなくなって
 ついに涙が頬を伝った。


 十環先輩は
 私に弱さを見せるほど
 結愛さんが大好きで。

 どうしようもないくらい
 結愛さんが大好きだからこそ
 私に助けを求めている。


 十環先輩の心の中に
 結愛さんしか存在しない現実を、
 大好きな人の腕の中で
 痛いほど突きつけられた。


 十環先輩……

 本当にドSで悪魔で残酷な人。


 私が十環先輩のことを好きって
 知らないからって
 好きでもない女の子を抱きしめる罪が
 どれだけ重いか
 全くわかっていない。


 そんなことされたら
 嫌いになんてなれない。

 そんなことされたら
 もっともっと大好きになってしまう。


 私は必死で涙をひっこめ
 十環先輩の腕からするりと抜け出すと
 無理やり女王様な自分を作った。

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