王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
だが、ナサニエルは妙に静かな気分だった。
ようやく侯爵が自分を追い落とす気になったかと思うと、変に気が楽になる。
利用する気でとはいえ、協力してくれる人間を殺めるのは、ナサニエルには無理だった。
こうして殺意をあらわにされたことで、ようやく自分の中で過去の義兄と決別できる。

「ならば私も、相応の手に出よう。アラン!」

「はっ」

ナサニエルは護衛のひとりを呼ぶ。
精鋭の護衛は、倍以上の人数の敵をすでにあと三人というところまで減らしていた。

「馬車を。安全なところまでカイラを連れて行ってくれ」

ナサニエルは御者を捕まえたまま馬車から飛び降りる。
アランは驚いて目を剥いたが、御者を失ったまま走る馬車を追いかけることにした。

中にいたカイラとロザリーは何度も伝わってくる衝撃に、小さな悲鳴を上げていた。

「大丈夫です。カイラ様。陛下は絶対に無事ですとも」

まるで祈りを捧げるようにロザリーは何度もつぶやく。

「カイラ様、ロザリー様、しっかり捕まっていてください」

護衛の声がして、ふたりは体を抱きしめ合う。

うしろから追手が来たようで、剣を打ち合う音もする。その間も止まらない馬車に、気が気ではない。

(でも、なにがあってもカイラ様を守らなきゃ。陛下のためにも、ザック様のためにも)

次の瞬間、ぐらりと馬車が傾いだ。

「カイラ様っ」
車体が何度か回転し、抱きしめ合っていたふたりは空いた扉から放り出される。
体に何度か伝わる衝撃に力が緩みそうになったが、ロザリーは必死にカイラを抱きしめた。
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