王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
リルはそう思う。だけど何かが胸に引っかかる。
目に見える場所はすべて平和で、憂うことなど何もないはずなのに。
(でも、あの人には見えている)
異国の血が混じった王子様。
彼はこの国が、アイビーヒルの住人が信じ込んでいるほど平和ではないことを知っている。
(行ってしまうの。行かないで)
いつの間にか周囲からレイモンドやオードリーは消え、ロザリーも犬の姿から常のロザリーの姿になっていた。
「ロザリー」
呼ばれて振り向くと、そこにザックがいる。
「ザック様」
『君が安心して暮らせる国にしたいと思っているだけだ。でなければ、……逃げ続けている』
いつだったか、彼がロザリーにくれた言葉だ。
それに対して、ロザリーは答えたのだ。『ザック様は私がいなくても国を見捨てたりしません』と。
(ザック様は見捨てない。きっと見捨てられない。この国を、陛下を、カイラ様を)
だから彼を助けたいと思ったのだ。できる限りの力で。
「ザック様は何を望みますか?」
ザックは微笑んでいた。
大切なものを守る力。みんなが笑っていられる世界。
「ロザリー、君と笑いあえる世界を。誰かが悲しんでいたら、君は悲しむから。だから平和な世界が欲しい」
「では、私も手伝います」
どこかで泣いている人がいる。それを知ってしまったら、平和なアイビーヒルにいても完全に幸せにはなれなくなった。
全てを守る力のある人が、立ち上がろうと努力しているのだ。
出来るならば支えなくてどうするというのだ。